空想変人ファイル 2 森田波彦

「今日はここまでにしましょう。」
120個目のペットボトルを庭の木にくくりつけた森田波彦は、真っ赤に染まった空を仰ぎながらつぶやいた。
もはやこれを木と呼んでいいものだろうか?
銀色の液体が淀むペットボトルが、まるで分厚い竜の鱗のように樹皮を覆っていた。
異様な変身を遂げた怪木が5本、我々を見下している。

「今日もエンドルゲムが神木のオーブムを世俗に拡散したようです。」
波彦は興奮と安堵が混じった表情で、私に語りかけてきた。
クシャクシャした細い目は、日中の熱気で減った容器の液体からそらさない。
「3・3・7アポラ・・・こんなところですね。」

波彦が一般世論で言う奇行に走ったのは3年前からだった。
ごく普通の商社マンであった彼の変化は、まさに突然だったという。
皆勤賞だった男が、長期の無断欠勤による解雇。
訪ねてきた上司に波彦は、この会社にそもそも勤めていないとまっすぐに言う始末だったそうだ。
心配した家族が脳神経科、精神科諸々病院をつぶさに連れて行ったが、異常なし。
まるで別人格に取って代わられたと思うしか無しと涙したという。

_20161005_013149「私は、産まれたときから何も変わっていないんですがね・・・むしろ環境のほうが変わってしまっていて、驚いていますよ。」
アデラマレと緑のデレマジェレを(彼はそう呼んでいた。)をビーカー内で混ぜながら、ため息をつく。
以前見せてもらった、「エンドルゲムが世界均衡と天、地、摩亥水(?)に幸福影響を与える解析表」を思い出した。
彼曰く、「おかしいな~?義務教育を受けた人でしたら、8割理解できるはずなのですが・・・」
蓮の花びらのような図を描く折れ線で埋まった美しい表。
彼の瞳は、決して狂信者にあるような死んだ黒目ではない、生気に満ちた光が宿っていた。

心底今の状況の変化が理解できないといった疑問だけが、

彼を支配していた。


インタビューが終わり、暗くなった田舎道を歩く。
変人をテーマに取材をしているつもりだったけれども、もしかすると森田氏は、ただの一般人かもしれないという疑惑・・・。
虫の音をかき消すくらいの思念がぐるぐる周り、
ある一つの仮説にたどり着いた。

(この世界にかって存在した森田波彦は、向こうの環境に馴染んで生活できているのだろうかな・・・。)

おおっと、考え過ぎか。もしそんな神様のいたずらがあったとしたら酷すぎるし、
一般人を変人として紹介してしまったら私の沽券に関わる・・・。

気がつくと虫の音は止んでいて、カエルの合唱が響き渡っていた。
夜道の世界線がちょっと変わった、そんな気がした。

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Taiga Sobajima
囚人番号066 通称パーティーピーポー とにかくド派手にがもっとう コンピューターグラフィックを始め、ペン画、クレヨン画など。 WEBコンテンツも担当の最年長。 HP: http://www.taiga.sobajima.info/

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